第25回 読書会「本と旅人」開催報告
2024年6月30日(日)に神田のカフェ「COLAZIONE VARIO」で25 回目の読書会を開催しました。
今回は22名の参加でした(うち、初参加は9名でした)。
今回も多くの方にご参加いただき、ありがとうございました!
もくじ
本日紹介された本
小説、実用書、エッセイ、短歌集など、いろいろなジャンルの本が紹介されました。
以下、運営のテーブルで紹介された本の一部をご紹介します。
ゴリラ裁判の日 | 須藤古都離
人間の言葉を理解し、手話を使ってコミュニケーションをとることができるゴリラ・ローズが主人公の小説です。
動物園で起きた、ローズの夫であるゴリラが殺された事件をきっかけに、人間社会で生きるゴリラの権利を守るために裁判をするというストーリーです。
裁判が進み、ゴリラの存在を見つめ直すことで、現実にも通じる様々な問題が出てくるようです。
・人種差別:ゴリラに対する人間のひどい扱いが、黒人に対する差別を彷彿とさせている。
・アイデンティティの分裂:言葉を理解するという人間としての性質を持つ一方で、自分の生理学的な出自はゴリラ。本当の自分はどちらなのかという悩み。
・宗教問題:本作で登場するゴリラは宗教を信仰しているようで、あまり宗教に関心がないような人間の若者と比べたら、真に救われるべきは信仰心を持つゴリラなのではないかという論争も出てくる。
というような、人間とゴリラの関わり合いの中に、人間社会の揶揄がふんだんに織り込まれているようです。
紹介者は、寓意性のある物語に触れたことで「人間とは何なのか」を改めて考えるきっかけになったそうです。
超訳 般若心経: “すべて”の悩みが小さく見えてくる | 境野勝悟
般若心経についての解説がされている本。
紹介者は、法事などで読んだ経験もある般若心経の内容を知りたい、また意味を知ることで自分の人生の手がかりにできたらいいなという気持ちで読み始めたみたいです。
般若心経は実は262文字という、意外にも少ないボリュームであることも学べたようで、その中からいくつか心に残った言葉を紹介していただきました。
「皆空」:悪いことの中にも必ずいいことが含まれているということ。1つの事象に対しても、捉え方が変われば心持ちを変えることができると改めて感じたそうです。
「不増」:必要な知識と財は後からついてくるということ。そのときに必要だと思わなかったものでも、巡り巡っていつかは自分のもとに訪れるというのは、仏教の「縁」という概念をより濃く感じることができそうですよね。
他にもたくさんの言葉が本の中に紹介されているようで、紹介者の方は、
「仏教の広大な思想が、たった数文字の漢字に凝縮されているのがとてもおもしろい」と言っていました。
私も似たような感覚があり、世界の言語を網羅しているわけではないですが、漢字ほどそれ自体の見た目がかっこよくて、無限に発散していきそうな意味を圧縮している文字はないのではないかと感動することがあります。
また私自身、最近般若心経に興味を持っており、羯諦羯諦波羅羯諦…の部分が好きです。
ここはいわゆるマントラにあたり、仏に対する祈りの象徴であるため訳してはいけないとされている部分ですが、意味を考えず発語するというのは非常に音楽的だなと思います。
実際に口に出してみると意外なほど語感が良いというのもありますが、ライブだったり家で音楽を聴くときにも、楽しい気持ちを表現したり、辛い感情を一時的に殺すために、意味を度外視して声を出して歌うことがきっとあると思うので、お経と音楽の繋がりを感じずにはいられません。
ひょっとしたら、何年も前の昔の人も同じように使っていたんじゃないかなと考えると、多幸感に包まれてしまいます。
白鳥とコウモリ | 東野圭吾
ある弁護士が殺された事件について、犯行を自供する容疑者の息子と、被害者の娘が協力して、真実を探し出すミステリー小説です。
紹介者は、かねてから小説を書きたいと思っていたそうで、ミステリー小説を読んで書き方の参考にしたいと考え、この本を読みはじめたみたいです。
実際に読んでみると、この本のようなベストセラーミステリーの構成の巧みさに圧倒され、作家の頭の中はいったいどうなっているだろう、と思い知らされたそうです。
特に、新しい事実の出し方が上手くて、地の文と会話文で情報の出し方が工夫されており、読んでいて引き込まれるような組立て方がされているとのことです。
書く側の立場になって本を読んだことがあまりないので、面白い捉え方だなと思いました。
また、シンプルにテンポがよく、東野圭吾作品の中でもグロテスクな描写が少ないため、色々な方におすすめできる小説らしいので、最近ミステリーに触れていない身としては、読書欲が上がりました。
きみが住む星 | 池澤夏樹、エルンスト・ハース
世界を旅して回る男性が、恋人に絵はがきを書き送る形で綴られる、手紙のような短編集です。
エルンストハースという写真家の写真に、著者の池澤さんの文章が添えられているのですが、写真・言葉のどちらもがとても素敵で見入ってしまいました。
一瞬の情景を切り取った写真が美しい言葉によって語られることで、奥に浮かぶ物語を知ることができ、とてもおもしろかったとのことです。
紹介者は、「花を踏まない馬」というタイトルの写真・文章が気に入ったようで、光が少しにじんでいて絵画と錯覚してしまいそうなまどろみを持つ、暖色の広がる花畑の様子がとてもきれいでした。
また手紙の内容も、ページが進むごとにストーリー性を帯びていくようで、そこもお気に入りのポイントだったみたいです。
紹介者は、言葉が純粋に好きな友人にこの本をプレゼントしたらしく、人に渡すことで思いを伝えられる手紙の形式をとった本を贈り物として選ぶなんて素敵だなと思いました。
短歌の友人 | 穂村弘
短歌を味わううえでのポイントが解説されていたり、短歌を読むことで生まれた著者の思考の流れが書かれた歌論集です。
紹介者は、穂村さんの著作「回転ドアは、順番に」を読んでいたこと、また短歌に何回か触れているが、具体的にどういうところに面白さがあるのかを知りたいと思ったため、この本を読み始めたそうです。
とある短歌の一部分が隠された状態で記載され、隠された部分に入る言葉は何か?というようなクイズ形式の内容にもなっている箇所があり、読者も表現行為に参加しながら短歌の良さを深掘れそうな興味深い本でした。
テーブルでは短歌の良さについて、
・日常にありそうだけど、頭の中で情景を想像するときに若干違和感があり、像を結ぶまで時間がかかるようなものがおもしろい
・いろんな気持ちやストーリーが、数少ない言葉に圧縮されているところ、また圧縮された言葉から物語や情景を解凍するのが楽しい
という話がでて、私はもっと短歌が好きになってしまいました。
逆ソクラテス|伊坂幸太郎
2021年の本屋大賞候補作にも選出された、伊坂幸太郎さんの5つの短編からなる短編小説です。
表題にもなっている「逆ソクラテス」は、自分が正しいという強い先入観を持った教師がことあるごとにとある生徒を馬鹿にしている状況を、なんとかして変えようとする生徒達の物語です。
「逆ソクラテス」というのは、先入観に凝り固まった、無知の知とはほど遠い場所にいる教師のことを言っているようです。
テンポが良く読みやすいが、同時に学びもたくさんある本とのことでした。
また、他の短編のタイトルが「非オプティマス」「スロウではない」「アンスポーツマンライク」「逆ワシントン」など、すべて否定形になっているのも面白いポイントだそうです。
センスの哲学 | 千葉雅也
センスとは何か、センスがよいとはなにか、そして芸術作品への向き合い方が解説された本です。
本や絵画、映画などに触れるとき、全体の意味や主題を受け取るのも楽しいが、細かいリズムや形それ自体に対して目を向けるおもしろさが書いてあるようです。
また、リズムというのは0と1の反復運動で、人間何かしら欠如している(=0の部分)を補う(1を求める)ようにリズムに酔いしれているということも学ぶことができとても面白かったそうです。
今までない方法で芸術作品に触れてみたいと強く思えるような本でした。
Cook | 坂口恭平
建築家である坂口恭平さんの料理本です。
多田のレシピ本ではなく、うつ病になった作者が料理を通して元気になる過程も書かかれています。
文章も手書きで書かれていて、一風変わった本です。
紹介された方は、
「面白い友達からの紹介されたので読んだ。
友達も面白い人なのでこの本も絶対おもしろいだろうと思って読んだら、案の定とてもおもしろい本だった」
とおっしゃっていました。
ちなみに紹介された方は、この本に書いてあるカルボナーラを実際に作ってみたそうです。
参加された方の感想
参加後の感想を一部掲載します。
アンケートにご協力いただき、ありがとうございました!
色んな本に触れられて、とっても楽しかったです…!
25歳女性
様々なジャンルの本を知れただけではなく、おすすめされた方自身の考え方の多様性に触れられて勉強になりました!
女性
本の紹介にとどまらず、互いが持ってきた本の内容から、ものごとの考え方や表現方法まで派生したのが、とても興味深く楽しかったです。
34歳男性
読書会後のランチ
いつもどおり読書会後にそのままカフェでランチをしました。
17名の方がランチに参加してくれました!
レモンが添えられたさわやかな風味のパスタが、もうそこまで来ている夏の足音を聞かせてくれました!
いつもありがとうございます〜!