第23回 読書会「本と旅人」開催報告

2024年5月26日(日)に神田のカフェ「COLAZIONE VARIO」で23 回目の読書会を開催しました。

今回は27名の参加でした(うち、初参加は7名でした)。

今回も多くの方にご参加いただき、ありがとうございました!

本日紹介された本

小説、実用書、エッセイ、絵本、短歌集など、いろいろなジャンルの本が紹介されました。

以下、運営のテーブルで紹介された本の一部をご紹介します。

本を守ろうとする猫の話 | 夏川草介

高校生の主人公が、祖父の残した古本屋で言葉を話す猫と出会い、本を守るために奔走するというストーリーの小説です。

本への雑な扱い方・読み方について考えさせられ、時間をかけて読書する大切さを改めて見つめ直すことができるような話がたくさんあるようです。
昨今話題のファスト教養やショート動画など、速効性の高いものばかりが蔓延り、ただコンテンツを消費するだけのサイクルに陥っている現代の状況を再認識できたとのことでした。

また、参加者の中に図書館の司書を務めている方がいたこともあり、図書館における選書の中で、
・最新の本を置けばいいのか
・歴史的な本を置けばいいのか
・10年後も読まれる本だろうか
など様々な観点で本の吟味が行われているという話も挙がったので、興味深かったです。

最近では『ルポ 書店危機』など、本屋の未来にまつわる本が出版され気になっていることもあるので、この機会に本屋の存在について考えることも大切だと思いました。

ビビを見た! | 大海赫

盲目の主人公 ホタルが、不思議な力で7時間だけ目が見えるようになり、その限られた時間の中で美しいもの、本当に見たいものを見つけていく絵本です。

ずっと見えなかった世界を目にすることができたのもつかの間、世の中には見るに堪えない残酷な争いがたくさん存在することを知っていく話でもあるようで、描かれている絵は恐怖、とりわけ不条理なものに対する諦観をもたらすような、独特のおぞましい雰囲気を纏っていました。

そんな辛く厳しい現実の中でも、主人公は美しいものを見つけ、自分の心の中に刻んでいきます。

紹介者の方は、そんな主人公の健気な様に心を打たれたようで、この本を読んで、
「辛いことがたくさんあったとしても、美しいものに出会えればそれだけで幸せなんじゃないか」
と強く感じたそうです。

この紹介を通して、紹介テーブルでは美しいものとは何だろう?と考える場も生まれました。
改めて考えると、私にとってそれは映画や音楽、そして本をはじめとした映像や音、言葉による豊かな表現たちであることを見つめ直しました。

そんな表現たちの、暗い現実を明るく照らしてくれるような溌剌とした力や、逆に暗いところは暗いまま肯定してくれるような柔らかさによって、自分が救われていることに改めて気づくことができたため、心に残った紹介でした。

殺人出産|村田沙耶香

4つの短編で構成されている小説です。

表題作の『殺人出産』は、「10人子供を産めば、1人殺してもいい」という制度が確立されている世界の様子を描いたミステリーです。

「殺したいなら産みなさい」という、村田さんの小説の特徴でもあるような、ぶっ飛んだ価値観や倫理観が、さも当たり前かのように描かれているのがとても興味深かったようで、10人もの子供を産んでまで向ける殺意の対象は、登場人物にとってどのような人なのだろうかと、気になってしまうような作品のようです。

収録されている他短編の『トリプル』という、「カップル」ではなく男性2人×女性1人の恋愛形態で物語が進む話もとても面白いようです。

私自身、村田さんの作品に登場する世間の常識からずれた価値観を持っている登場人物の芯の太さが大好きなことに加え、先週の読書会でも、村田さんの『生命式』を紹介している方の紹介が印象的だったこともあるので、両作に対する読書欲が高まりました。

命売ります | 三島由紀夫

自殺を試みるも死ぬことができなかった主人公が、自身の命を新聞広告を通して売り出すことで、絶命しようとする様子が描かれた小説です。

命を売り出してもなかなか死ぬことができない主人公が、毒を盛られて殺されそうになったことに対して腹を立てる場面もあったことから、紹介者の方は、

「この小説は自殺を悪として主張しているのか、死をコントロールできないことへの不安を表現したかったのか、小説を通して伝えたいメッセージの理解が難しい。実際に読んだ方と感想を共有したい。」

とおっしゃっていました。

また、死ぬことができない一方で、命を買ったとある依頼者が主人公より先に死んでしまうことに対して、主人公が依頼者のことを慮って悲しむ描写などもあるようで、この小説の意図を読み取るのが難しかったそうです。

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬 | 若林正恭

オードリーの若林さんが、キューバに行った際の出来事や所感を綴ったエッセイです。

1つのことを突き詰めて考える若林さんが、自身のそのような性質が生きづらさにつながっていると感じ、その根本が日本の競争社会に由来していると考えた結果、社会主義国のキューバへ旅に行くことを決めたようです。

紹介者の方は、

「物事をとことん突き詰めて考える人から語られる、海外の様子が面白い。」とおっしゃっていました。

また、若林さんがキューバに行ってから、自分が自身のことしか考えずに生きていたことに気づき、「家族をもちたい」という風に価値観が変わった場面も、紹介者にとって印象的だったようです。

火のないところに煙は | 芦沢央

「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」という依頼を受けた小説家が、実際に小説を書いたことで事件に巻き込まれていくというモキュメンタリー(※)小説で、2019年の本屋大賞にもノミネートされた作品です。

(※)フィクションではあるが、ドキュメンタリーの手法を用いてあたかも現実のように表現するジャンル

作中で主人公が「架空」の物語として出版した小説に読者が反応し、様々な情報が集まってくるというリアリティにあふれた描写もあり面白いようです。

紹介者の方は、以前、雨穴さんの『変な家』を読んで気に入り、本作も似たようなテイストがあるようで、モキュメンタリー好きの方におすすめしていました。

また、「火のない所に煙は」…立つのか立たないのか、それが読み進めていくうちに解かれていくのもポイントらしいです。

タイトルから醸し出される、見えるのか見えないのか分からない煙やその匂いが持つ幽玄な魅力は、読者が存在する現実と、フィクションの境界線が朧げになっていくようなモキュメンタリー特有の面白さに通じていると思ったので、読んでみたくなりました。

日の名残り | カズオイシグロ

名家に仕える執事が、主人や他の貴族、また政治的なできごとに関わることで自分を見つめ直していく小説です。

以前、神保町で行われた他の読書会の課題図書として指定されていたこともあるみたいです。

執事の、恋愛よりも仕事を優先するような自己犠牲の精神や、主人に絶対的に仕えるひたむきな姿勢が魅力的なようです。しかし、以前参加した読書会では、そんな執事のキャラクターに対して、

「理想だけが高すぎて行動が伴っていない」
「主人がナチズム寄りの思想を持っているが、本当に主人のことを思っているのなら止めるべきではないのか」

など、主人公に共感できない!といったような意見も多数挙がったようで、人による小説の読み方の違いを、改めて感じたみたいです。

そんなテーマもあってか、紹介テーブルでは、小説を読むとき、登場人物に対してどのような姿勢で向き合っているかという話にもなり、

・共感できるポイントを探し、感情移入を楽しむ
・とにかく優秀な主人公のかっこよさ、強キャラぶりを楽しむ
・悩みを抱えて葛藤している、どうしても生きているような姿に感動する、
 その悩みの軌跡を読者自身の学びにする
・全く共感できないような得体の知れないキャラクターのおぞましさを楽しむ

等が挙げられました。

葉桜の季節に君を想うということ | 歌野 晶午

探偵の主人公が、元ヤクザの男から奇妙な依頼を受け取ったことで、様々な事件に巻き込まれていくミステリー小説です。

小説の序盤は、色々な事件が並列して描かれるため読み解くのが難しかったそうですが、物語が進むにつれ、複数の事件の要素が繋がり、最後の事実を知ることによって得られる衝撃があるようで、その余韻で何度も読み返したくなったそうです。

紹介テーブルにはミステリー好きな方も多く、

・叙述トリックのルール(読者に対して、必要な情報は提供しきる必要がある)
・恋愛の要素は、古典的なミステリー作品ではあまりよいものとされていなかった
・帯などで「どんでん返し」が作中にあることを知ったうえで読むのは、それこそネタバレになるのでは?
 →むしろオチが気になって読書欲が高まる!

などミステリー作品の構造や方法論、好みなどの話が挙がりました。

参加された方の感想

参加後の感想を一部掲載します。
アンケートにご協力いただき、ありがとうございました!

楽しく過ごさせていただきました。
たくさんの方がいたので他の方の本ももっと知れたら嬉しいです。

27歳女性

自分の紹介したい作品について語れました。
また、他の人の本を聞いて興味を持てました。

20歳男性

様々な方と交流し、色んな本を知ることができて充実した時間でした。

30歳男性

読書会後のランチ

いつもどおり読書会後にそのままカフェでランチをしました。(写真を取り忘れてしまいました、、、)

19名の方がランチに参加してくれました!

ホールスパイスが含まれたオムライスの絶妙な味わいと食感に、舌鼓を打ちました!

いつもありがとうございます〜!