第28回 読書会「本と旅人」開催報告

2024年8月4日(日)に神田のカフェ「COLAZIONE VARIO」で28回目の読書会を開催しました。

今回は26名の参加でした(うち、初参加は8名でした)。

今回も多くの方にご参加いただき、ありがとうございました!

本日紹介された本

小説、実用書、エッセイなど、いろいろなジャンルの本が紹介されました。

以下、運営のテーブルで紹介された本の一部をご紹介します。

こころ | 夏目漱石

このサイトの閲覧者には改めて説明するのも釈迦に説法な、日本の代表的文学です。

紹介者は、高校生のころ授業で初めて触れ、面白すぎて続きが気になってしまったようです。

ただ、今しっかり読むと倫理観が欠けているような恋愛観や、BL的な要素も想起されることから、この物語が教科書に掲載されている事実に、もはやすごさを感じてしまったとのこと。

そういった部分も含めて、この本のような単純にきらきらした恋愛で進まない、人間の奥の奥までが浮き彫りになるような愛の話が好きだと実感したようです。

ピクニック | 今村夏子

今村夏子さんの「こちらあみ子」の文庫に収録されている、短編小説です。

紹介者は、映画「花束みたいな恋をした」で、ある人を揶揄するときにこの本が登場したことから興味を持ち、読み始めたそうです。

虚言癖を持つ登場人物が、引くに引けなくなり嘘を重ねてしまう感じや、それをたきつけるように悪乗りする周りの人々の意地悪さが面白いとのことでした。

また、短い「」の表現される会話文が数多く交わされることでページに生まれる余白の部分が、登場人物たちの間で生まれる嫌な空気を増長させているようにも感じられ、視覚的にも怖い本だったとのことです。

最後の恋 MEN’S―つまり、自分史上最高の恋。 | 朝井リョウ ほか

男性の奥底にある、女性には解らない恋心が描かれたアンソロジー形式のエッセイ集です。

夢物語のような恋が描かれるのではなく現実的な視点が多いこと、またひねりのある物語に面白さを感じたようです。

特に、石田衣良さんが描く女性の生々しさに引き込まれたとのこと。

また紹介者は、この本を気に入ったため、最後の恋 ―つまり、自分史上最高の恋。という女性版のエッセイも読んだようで、男女の視点が比較できたところが面白かったそうです。

これが恋愛の処方箋になるのであれば、今すぐ読む必要が私にはありそうだなと思いました。

コレクターズ・ハイ | 村雲菜月

あるキャラクターに熱烈な愛を注ぐ主人公の、ゆがんだ執着が浮き彫りになる小説です。

主人公は推し活をもっともっと進めるためにある男と奇妙な交渉をするらしく、
その顛末に目が離せないとのことでした。

この本を読んだことで、
「推し活する人々への解像度が上がった。推すという活動には際限がない。
また、ファン歴はお金をかけても得ることはできない」
というような気付きを得られたようです。

そこから転じて、「推す」ということに対する話が盛り上がったため、下で後述します。 

スター | 朝井リョウ

大学時代、映画製作で才能を発揮していた二人の青年が、卒業後、名監督の弟子入りとYoutubeの配信者として真逆の道をたどり、趣味嗜好が多岐に分かれた世の中を相手にした、作り手としての葛藤が描かれる小説です。

二人の対比が見事に描かれているところが面白く、作り手が抱える悩みなどを知ることができて勉強にもなったとのことです。

そして我々、作品の受け手として、物事を「好き」と思う感情や状態って何なんだっけ?と思わされる場面もあったようです。

メインストーリーは映像制作をする二人の対比なのですが、料理人として登場する人物の、料理をお客様に届けることに対する葛藤が主人公二人と同じように描かれている場面が、構造としてとても面白かったとのことです。

ウエスト・ウイング | エドワード ゴーリー

絵本ではあります。
が、ナンセンスさや不気味な雰囲気をまとっている絵が満載で、大人のための絵本、といったような本です。

この絵本には文字が一個も含まれていないそうで、見る人の想像に委ねられる気味の悪さがあるとのことです。

また、絵は全て白黒で色彩がないようで、理解のできない恐怖が増幅されるような力を感じたみたいです。

実際見てみましたが、情報を上手く処理できず、明確な意味が捉えきれない不安を覚えました。

タイトルも「ウエスト・ウイング」(=西棟)で、具体的にどこの西棟なのかを決定しきれない、言い換えれば自分の近くにもあるかもしれないようなそら恐ろしさもある、という意見もあがりました。

転じて、「こわい」とは何なのかを考える話が盛り上がったため、下で後述します。

ちなみに、作家であるエドワード・ゴーリーの展覧会が、横須賀美術館で9月1日まで開催されているようです。

エドワード・ゴーリーを巡る旅 横須賀美術館

句点。に気をつけろ~「自分の言葉」を見失ったあなたへ~ | 尹 雄大

「わかりやすく話すこと」「言語化すること」に価値があるような世の中で、まとまらない言葉の中にこそ本当に伝えたいことがある、というようなことが説明されている本。

的確にしゃべるために重要になるのが、タイトルにもある「。」、つまり句点であり、これを深掘りすることで思考の奥を探っていくような本のようです。

紹介者は、
「わかりやすく話すことができない、と自分を否定してしまうようなこともあったみたいなのですが、この本を読んで、無理に上手くしゃべろうとしなくてもいいよね」
と自分の弱さを受け入れられるきっかけにもなったそうです。

過度な言語化から離れてみる、という紹介者の話を聞いて、何も自分一人で言語化を完結する必要はなく、みんなと言葉を積み重ねることでまた違う景色が見えてくることを、この読書会で学んだ事を思い出しました。

紹介者の方は、この本を「翻訳できない わたしのことば」(東京都現代美術館)の展示で見つけたそうです。

この読書会でも先月、何人かで鑑賞しました。そのときのレポートは以下です。

第2回 美術鑑賞会 東京都現代美術館 「ホー・ツーニェン エージェントのA」「翻訳できない わたしの言葉」

2024年6月23日(日)の読書会の後に12名で、清住白河の東京都現代美術館で行われている特別展 ・「ホー・ツーニェン エージェントのA」・「翻訳できないわたしの言葉」 …

峠(上) | 司馬遼太郎

混乱する幕末時代を生き、上に上り詰めていく英傑の話が描かれた小説。

読み進めるうちに時代の流れがつかめていく感じが楽しかったそうです。

また、激しい時代の変わり目に、的確に先を見据える登場人物のすごさを感じたそうです。

登場人物たちの会話が仔細にわたって描かれているところから、司馬遼太郎の想像力や時代への解像度の高さに驚かされもしたようです。

こういう本からは作家が読み込んできた参考資料の膨大さが感じられる、といったような話もあがりました。

本日のハイライト

運営メンバーのテーブルで、フリートーク中や本の紹介の流れで話題になったトピックを一部紹介します。

「こわい」とは何か

ホラー系の本が紹介された卓で、どういう時に「こわい」と思うのかが話題になり、以下のような要素、例があがりました。

・全貌がわからないもの
・情報に接続できるポイントが少ないもの
・匿名性
・公営団地
・窓

ホラーが全盛になる夏に向けて、恐怖への解像度を上げていきたいですね。

「推し」が与える安らぎと危うさ

「推し」とはどういった行為、状態なのかという話から、推しによって救われる人や、危険性が話題になりました。

推しを推すことで自分の存在意義を実感することができ、ファンコミュニティに所属している、という安心感がはぐくまれる。

その一方で、繁華街などの大きな広告に載る推しを撮影しようとして、ほかの人々の迷惑になるといったような現実的な問題も生まれる。

また、まだ記憶に新しい、お笑いコンビ「ラニーノーズ」に起きた事件のような、行き過ぎた「推し活」が、推される対象に身体的・心理的な被害を与えてしまう事例を考えると、「推し活」を手放しに肯定も否定もしきれない難しさを感じました。

実家になぜかある本第一位

実家に帰ったら見かける本第一位は、小説 「ダヴィンチコード」である、という(偏見の)話があがりました。

「下」だけおかれてるのを見たことがある、など全巻そろってないことが多い、という意見もありました。

個人的にこのあるあるは腑に落ちていて、私の実家でも「中」だけないのを見たことがあります。

参加された方の感想

参加後の感想を一部掲載します。
アンケートにご協力いただき、ありがとうございました!

プレゼンやアウトプットの練習になった。

29歳男性

初めての読書会でとても緊張しましたが、皆さん暖かく質問などしてくださり、話しやすい雰囲気でよかったです。
ありがとうございました。

33歳女性

皆さんの紹介していただいた本はとても興味が沸き、読んだことのある本は新しい視点を得ることができました。

25歳女性

読書会後のランチ

いつもどおり読書会後にそのままカフェでランチをしました。

22名の方がランチに参加してくれました!

スパゲッティの上に広がる、ミートソースとチーズの力強さに圧倒されながらも、
時折嚙み潰したときに広がるパセリの青さがアクセントとなり、麺を巻く手が止まりませんでした!

いつもありがとうございます〜!